第5話「BLACK13」


いつものように車で移動している訳だが、俺達は途方に暮れていた。

前回の施設でライドロイドの破壊に成功したものの次の目的地の情報を得られず、更には路銀が尽きようとしている。

これというのもジャスティスが邪魔してくれたのが原因な訳だが、金に関してはあれやこれや装備を買いあさったのが原因だ。


「ディー、どうするよこれから。」

ダルガフは面白くなさそうな顔をしてたずねてきた。
まぁ人間腹が空けば機嫌も悪くなる。そういえば財政の問題から今日はロクなモノを食べていない。


小食の俺はいいが、体のでかいダルガフに堪えるだろう。


「しょうがない。ここら辺にカジノはあるか?」


俺が言うとダルガフは呆れた顔で返していた。


「やめとけディー。俺もその手は何度か試した。」


「今の所持金はいくらだ?」


「手持ちが日本円の3万円…後はカードか。いや、期待しないほうがいい。」


「1万円借りよう。」


「すってもお前持ちだぜ?」


ダルガフは相変わらず浮かない表情で俺に1万円を手渡した。











そしてカジノ。

スーツやら靴やら、上等なモノを持ち合わせていない俺達が選んだのはそれ相応のカジノ。ぎりぎり一般市民が入れるような所だ。
だがその中でもベットは一番高い。到底所持金一万円で入れる所ではなかった。

「おい、ディオス。せめて競馬辺りにしないか?」


「黙ってみていろ。」



俺は換金所へ行き、心配するダルガフを他所に持ち金1万円を全てチップへと変えた。

「オイ、ディー。本当にやるんだな?」

「あぁ。」


俺は迷わずルーレットの席へと着いた。周りにはいかにも金を持っていそうな顔ぶれが揃っている。
まだカジノへ来るような歳では無い俺を、そいつらは物珍しそうに見た。


「いらっしゃいませお客さん。ククク。ずいぶんお若いようですがルールの方は大丈夫でしょうか?」


ディーラーは口を歪ませ俺を虚仮にしたような口ぶりだった。地元の人間が集う場所ならこんなものか。


「問題は無い。」


「そうですか、失礼しました。ではベッドのほうをお願いします。」


「………そうだな、では赤に賭けよう。君のその赤いネクタイ、なかなか決まっているのでな。」


「ぅっふふふふ、ありがとうございます。では回しましょう。」




そうしてディーラーがルーレットを15回ほど回す頃には、俺のチップは山のように積み重ねられていた。
当然他のプレイヤーやディーラー、そしてダルガフも目を丸くしていた。


「ディー、やりゃぁ出来るじゃねぇか。お前そんな才能があったんだな?」

「まぁ…な。」


ダルガフは大喜びだが、ディーラーはそういう訳にはいかない。さっきの舐めた顔も今は青ざめた顔になっている。


「いやーブラボォ。お客さんは運がいい。」

何を考えたのかディーラーは青ざめた顔を元に戻し、また最初のような歪んだような笑みを浮かべながら俺にからんできた。

最初から薄々思っていた。こういう人を舐めたヤツには必ず裏がある。恐らく俺のチップを取り返す為の勝負でも挑んでくるのだろう。



「あぁ、今日はついている。」


「そこでどうでしょう。そのお客さんの運を見込んで、私が個人的に勝負を申し込みたいのですが。」

ほら、来た。小さい野朗だ。


「おい、ディー、止めておこうぜ。今換金すれば相当な金になる。わざわざそんな無茶をする事はない。」

ダルガフはディーラーの申し出を聞いて大慌てで俺を止めに来た。俺は黙って一万円分のチップをダルガフに渡してダルガフを下がらせた。

「ディー。」



ダルガフには悪いがこういうヤツは一度痛い目に合ってもらう。恐らくは何かしらのイカサマを仕掛けてくるに違いない。
今までそうやって客を食ってきた、そういう顔をしている。最初は生活出来る金を貰えればそれでヨシとしたが、こいつの顔を見て気が変わった。





こいつは俺が裁く。






「いやぁ〜ブラボォ。お客さんは男の中の男だ。お若いのに大したものだ。」

「勝負は受ける。それでルールは?」


「えぇ、なに単純な事ですよ。お客さんは一つのマスに全額をかける、当った場合私は通常の10倍のチップをお払いしましょう。なぁにお怖いのなら黒か赤、どちらに賭ければ2分の1で当りますよ。どうです?運のお強いお客様の為のサービスですよ。」


強気の条件にこの余裕。確実に仕掛けてくるな。

今までの当りは、全てガントリニティによるものだ。戦闘中でもなく、銃弾を避けるといった難しいものでなく、ただルーレットがどの番号になるかと言った単純なものなら精神的疲労も少ない。そのお陰で15回ものガントリニティを使えた訳だが、流石に疲労も溜まってきた。

それに今回はただ未来を見るだけではダメだ。ルーレットによるランダムの確立と、賭けの最中に起こるとされるイカサマを二つ読みきらなければならない。
俺が未来を読みきって賭けたとしても途中で番号を変えられる可能性があるからだ。先にディーラーに番号を提示した時点で俺の未来は決まってしまう。

イカサマの謎を解かない限り俺はディーラーには勝てない。



「どうしました、お賭けになる番号はお決まりでしょうか?ぅっふっふっふっふ。」



ガントリニティは未来を見る能力であって千里眼ではない。イカサマを見切るのは不可能だ。





いや、待てよ。何もガントリニティに頼るだけが能ではない。アイツが予想出来ない事、不足の事態を起こせばいい。
自分が仕掛けた絶対的トラップが壊れ、逆に俺の流砂へと飲まれてくれればそれでいい。


後は材料だ………


俺とディーラーの真ん中に位置するルーレット。運命を決めるこの円はプレイヤー含め、何処よりも明るく照らされている。

このままなら俺が負けるという運命も、この光輝くライト元に照らされてしまう。


………


………



いや…ハハハ。

俺の運命に光などはいらない、もっと暗いものでいい。


ただ、俺の運命は俺が決めさせてもらう。



「………ブラックの13番にしょう。」



俺の言葉を聞き、ディーラーはにたりと笑みを浮かべた。


「よろしぃ、ではルーレットスタート。」



勢い良く回されたルーレットに、ボールが放り込まれる。

格番号を巡りながら、ボールはやがて収まる目を目指して回る。だがその収まる目は、このディーラーによって捻じ曲げられる運命にある。


ディーラーの顔は相変らず人を舐めた顔している。

楽しいだろうなぁ。楽しいだろうよ、人の運命を弄ぶっていうのは。



「よぉ〜く分かるぜテメェの気持ちが。」



俺はポケットにあった10円玉を指で弾いて飛ばした。その場にいる全員がルーレットに注目している中、その事に気付いたのは誰もいない。

10円玉は行きかう人の隙間を抜け壁に跳ね返り、そしてルーレットの真上にある大きな照明のケーブルに突き刺さった。
経費をケチって古いままにしたのが運のツキだ。照明のケーブルは10円が付けた小さな傷で簡単に切れ、ルーレットに近い大きさの照明はそのまま落下した。

丁度ボールが止まる寸前の事だった。



大きな音と衝撃がカジノ中に響き渡り、ルーレットの上に鍋のふた状の照明がかぶさった。


騒然とする一同の中、俺は冷めた顔でルーレットを見つめていた。



狙い通りだ。恐らくルーレットが入ろうとした目はディーラーが仕掛けた目、この衝撃なら確実に目は変わる。そしてフタのようにかぶさったこの照明は、ルーレット上部からの細工を防止し、更にドデカイ音でカジノに居る者全ての注目を集める。360°から見られている中イカサマを仕掛けるのは困難だろう。



自分の意図とは別に汗を流し、明らかに動揺した顔をしたディーラー。イカサマは失敗したようだな。


「確立は圧倒的にディーラーあんたのほうが有利だ?この照明をどかして中を見ればいい、ボールがどの目に入っているかを。それとも大見得きって挑んだ勝負を流すとでも言うのか?」



「ぁぁあ…ぅぅう。」



「…いいだろう。今賭けたチップを戻すなら流してもいい、どうだ?」



ディーラーは黙って頷いた。もはや言葉も出ないという所か。



「人の運命で遊びすぎて、自分の運命を忘れちまったようだな。」



「………」







そうして、俺は1時間弱で4000万もの大金を掴み。全て現金に変えて車に積んだ。







そうして車の中、ダルガフは上機嫌で俺に話かけてきた。


「いやーお前も運がいいな。こういう特技があるなら早く言えよ。」


「…悪いが能力使用で疲れているんだ。少し寝かせてくれないか?」



「の・う・りょ・く?」

ダルガフは不思議そうに首をかしげている。全くまだ気付かないのか、俺がガントリニティを使った事を。



「お前、ガントリニティを使いやがったな!?」


「あぁ、そうだ。あっちもイカサマを使ってきたからな、少しこらしめただけだ。」


「なんだよ、それがあるんじゃねぇか。クソ、最初に言いやがれ、ハラハラしてたじゃねぇか。」


「気付かないお前が悪い。」



「に、してもよ。最後の賭けはよく勝ったな。」



「あぁ、アレか。あれは別に勝っちゃいないさ、ボールが入ってたマスだって13には入ってないだろう。」


「はぁ?マジかよ、お前ルーレットを確かめられてたらどうするつもりだったんだ?」


「ああいう小物は最後の手段を破られると尻尾を巻くのさ、まして俺が15連続で当りを引いてたからビビっているハズだったしさ。」


「お前ってヤツは、何かだんだん悪者に見えてきたぜ。」


「ハ、何にしても金はいるだろ?」


「極悪人…」


「その極悪人が稼いだ金でメシを食うのは誰だ?」


「お前いいギャングになれるよ。」


そうして、4000万の現金を積み、俺達を乗せた車は次の町へと走った。






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