第3話「雷獣」





先日の一件から逃げるように町を出た俺達は、あても無くただ復興派から逃げるように車に乗っていた。


「じいさんの事残念だったな。」

「あぁ。」

心配してくれるダルガフの言葉に、俺は素っ気無く返すことしか出来ない。悪いとは思っていても今は多く喋る事を体が拒絶している。

車窓から景色は、悠然と流れては別の景色へと移り変わる。俺の心もまたこうありたいと願っていた。

いや、そうならなければならない。そうならなければ…



とにかく何か話しかけよう。いつまでも黙っていてはダルガフにも悪い。
俺は車内の異様な匂いに気付いた。何かが燃えているような煙が立ち込めている。
その原因がダルガフだとすぐ分かった。

「ダルガフ、お前。それはもしかして…?」

「ん?あぁ煙草だよ。煙草。」

「せぇあ!!」

俺は手刀で煙草を真っ二つにし火を消した。当然ダルガフは驚いた様子で一瞬車の運転を誤った。

「ななな、何すんだディー。」

「ダルガフ。そんなに癌になりたいのか。」

「ディー、てめぇ。」

ダルガフは怒っているがこれでよかったんだ。
あれほど悪い病気は無い。摘出困難でおまけに時が経てば肥大化して命を奪う。

「いらねぇ知恵つけやがって。」

「ぐ…痛いぞ。ダルガフ。」

ダルガフの拳が頬に当った。かなり痛い。
それから暫く車内で殴り合っていたが、走行中にそんな事をしていては危ないという事でひとまず拳を収めた。


「くそ、何をやっているんだ俺らは。」

「…全くその通りだ。」


ダルガフは一息つくとまた煙草をくわえ火をつけた。
俺の中の医師魂がそれを止めろと騒いだが、先ほどの二の舞になりそうなので止めておいた。


「それでディー。これから何処へ行く。はっきり言って俺らエージェントはまだ復興派の居場所を突き止めてない。」

「だろうな、米国がいくら嗅ぎまわろうともここはヤツラの庭だ。見つかるはずも無い。」

「なるほどな。そこら辺にいる一般人さえ息がかかっているかもしれないという事か。」

「あぁ、俺も本拠地の場所は定かではない。しかしいくつか心当りがある。やつらそれぞれアルセリアの研究成果を元に分野別で研究所を設けてる。バイテク、核開発、そして新兵器開発。俺が知っているのは最後の場所だけだ。」

「新兵器開発?一体どんなモンなんだ。まさか人型ロボットとか言わないだろうな。」

「…なかなか勘がいいな。そのまさかだ。戦場を選ばず、あらゆる武器を使用し、戦車よりも機動性に優れる有人兵器。ライドロイド。」

「うげ。マジかよ。」

「マジ?とはなんだ。」

初めて聞くワードに思わず話を腰を折ってしまった。しかし分からない事を放っておくのは良くないと母さんが言っていた気がする。
だがダルガフは少し驚いた様子で俺の質問を断ち切った。

「まぁいい。話を続けてくれ。」

「実はライドロイドは10数年前に完成しているんだ。アルセリアが研究の末出来上がったライドロイドは、オーバーテクノロジーの塊のような兵器。しかしアルセリアはその性能を恐れその2体何処かへ封印した。今復興派が開発しているのはアルセリアの残した資料を元に行っているのもだろう。」

「さすがお前の母さんだ。そんな夢みてぇな兵器が現実になりゃエイブラムスが小隊でかかっても無駄だろうな。」

「その通りだ。原型まではいかなくとも完成すれば十分な脅威だ。俺達二人でどうにかなるかは分からないが、先に潰しに行こう。」

「OK。」




その時だった。
車に備えつけられていた通信機の音が車内に響いた。

ダルガフは通信に応じる気が無いように運転を続けている。
しかし発信元のコードに気付き、深いため息をついてから通信機を取った。

「………」

ダルガフは何も言わないまま回線だけを開いている。どうやら余り応じたくは無いらしい。


「自分が何をやっているか分かっているの?」


ダルガフの対応を確認したように少しの間をおいてから、相手が鋭い口調で喋り始めた。
どうやら相手は女らしい。だが、胆のすわった印象が伺える。ただの女では無いようだ。


「分かっている。」

「国を捨てて何処ぞの犬とつるむなど、一体何を考えている。」

「俺はいつでも国の事を思っている。お前とはやり方が違うだけだ。」

「そう…私達に表の顔は無い。復興派の調査が終了するまでには消えてもらわよ。」

「お前とは戦いたくなかったな。」

「…」

そうして、ダルガフは通信を切った。

相手の女性は最後まで冷徹を保ちながらも、後半は悲しさの混じった怒りが感じられたように思えた。
二人には俺が考えるよりも深い仲のようだ。それが殺す殺さないの騒ぎか…
俺と…行動を共にしているからか。

俺は先ほどの通話については何も質問せず、ただ窓の外を眺めていた。



「聞かないのか?」


ダルガフはしかめっ面のまま沈黙を破った。俺なりに気を使ったのだが、コイツには無用かもしれんな。


「…昔の女が恨み言でも言ってきたか?」


「………」


場を軽くしようと言ったつもりが、ダルガフはますますしかめっ面だ。俺に気を使わせるなど…


「まぁ、そんな所だ。」


結局ダルガフは俺の冗談に乗ったが、真意を語りたくはないようだ。
しかし話してもらわなくてはならない。おそらくはエージェント仲間といったところか。
敵か、味方なのか…


「悪かったよ。一体なんだったんだ?」


「…同僚だ…元な。運が悪ければ戦う事になるかもしれない。すまないな、俺のせいで。やり合う事になった時は俺がなんとかする。」


やはりそんな所か。
全くダルガフも気を使いすぎだ。それとも俺を子供扱いしているのか。
どちらにしてもここまで来てそんな事を気にする必要はない。


「お前が何をやってもどうせはぶつかる敵だ。敵なら倒す、それまでだ。」

俺はそう言ってから、ずっと窓の外を見ていた。
それが照れ隠しだという事を受け入れられずに葛藤している。

俺も…変わったのかな。


「…すまないな。」


「………」


























「ここか?」

「大日本復興派 第十二種有人兵器 第3研究所。」


俺達が着いたのは古びた小学校。郊外に細々と存在するこの学校は、表沙汰はただの廃校だが地下はヤツラの巣になっている。
以前兵士の情報を盗んだので恐らくは確かなはず。



いや、ここに間違いない。

ここの空気を吸った時から匂う。あの時の…あの部屋の…ヤツラの匂いが…


俺は自然と殺気を放ち、アルセリアに手をかけていた。


「ディー、ヤツラは地下だな?発見されずに潜り込むのは可能か?ディー…」

ダルガフの声で、手に吸い付いてくるアルセリアを話した。少し呆けていたようだ。
こんな状態では戦力低下が目に見えている。冷静にならなければ。


「ん?あ、あぁ。そうだな。校門から囲んで外壁周辺から監視が鋭い。それにここは滅多に車が通らない場所だ、恐らく警戒も厳しくなっているはずだ。」

「…なるほど、この施設から見て勢力は2〜30人といったところか。」

「いや、問題はそこじゃない。重要施設にはそれなりのヤツラがいる可能性が高い。」

「それなりのヤツラ…か…。」

「あぁ、だから俺が先行して一騒ぎ起こす。お前はその隙に開発中の兵器を叩け、ライドロイドならビンゴだ。」



それを聞いてダルガフは、暫く腕を組んで考えてから頷いた。
本来ならばそんな強行手段を取りたくはなかっただろうが、今俺達にある力ならそのぐらいを賭けをしなければならない事ぐらいダルガフにも分かっているんだろう。


「ダルガフ、ライドロイドを破壊出来るような装備はあるのか?」

「ま、こんな事もあろうかとってやつだ。」


ダルガフが俺に見せたのは C−4 プラスティック爆弾。量も十分だし、ダルガフが見繕ったものならば性能も問題ないはずだ。


「いいだろう。そいつの火の手が上がるまで一暴れしてくる。」


俺が歩き出すとダルガフは俺を止めて何かを俺に投げてよこした。


「コレは…?」


見た感じは手榴弾のようだが…
俺にこんなものは必要ない。このアルセリアがあれば十分だ。

「無用だ。」


俺が投げ返そうとするとダルガフは手を翳して言った。


「お守りみたいなもんだ。持って行けよ。」


そう言われて、俺は強引に手榴弾を押し付けられてしまったが。自害ようにでも取っておくかなどと、心の中で冗談を言ってポケットに仕舞った。

まだそんな悠長な冗談を言える分俺は落ち着いているのだな。



「行くぞ。」



アルセリアを取り出し、目に殺気を宿した。
心の中のスイッチを入れ、心を昂ぶらせる。

一歩一歩校門に近づく度にヤツラの存在がより濃く、はっきりとしてきた。

敵はいる。俺を見ている。

敵意が、肌へと突き刺さるのを感じる。





「!!」

校門を超え、学校の玄関まで来た時に殺気は現実へとなった。

何処から放たれた銃弾が俺へと飛んだ。
弾が二発別方向から飛んできたので敵は二人だと踏んだが、まだ他にもいるかもしれない。

俺はある程度の身構えをしていためとっさの所で避ける事が出来た。しかし頬にかすったようだ。血が滴っている。

追撃が無い所を考えると角度的には二人…


この程度のヤツラにガントリニティは無しだ。一気に片付ける。


俺が走り出すと物陰から二人の兵士が現れた。装備は…ハンドガン…のみ。

一気に間合いを詰めてまず一人目の銃を蹴り装備を奪った。その隙に一人目を盾にして二人目をアルセリアで仕留めた。
掴んでいた一人目は左腕を折ってアルセリアを突きつける。

「入り口を言え。」

「………殺せ。」


俺は拒む兵士の太ももを打ち抜き、もう一度兵士に銃をつきつけた。

「ぐ、ぐあぁああああッ」


「先に地獄で待ってるか?」


「…この先の教室の教卓だ…」


「………」


なかなか教育された兵士だ。これは簡単にはいかないかもしれない。
俺は気絶した兵士を後にして先へと進んだ。





長年使っていない教室には生徒のものらしき絵や習字がそのまま貼ってあった。
生死を意識しているこの緊迫した雰囲気でも、こういうものは嫌でも俺の目に入ってきた。

俺も、本当ならこういう所で他の人間と戯れたりしていたのだろうな…


それを………


そうして俺は一枚の絵を見つけた。恐らく自分と母親を描いたのだろうその絵は、ひどく俺の心を揺さぶった。
手を繋いで、母親と子供が野原を歩いている。


「クッ…」


嫌な事を思い出してしまった。


俺は近くの壁を殴りつけて気を紛らわした。


今は感情的になるべきではない。落ち着け…
戦う事だけを考えるんだ。戦う理由は暇な時にでも整理しておけばいい。ここで死んで何になると言うんだ。

「………歩こう。」



入り口はすぐに見つかった。掃除もろくにしてない教室はホコリにまみれており、人が通った後がすぐに分かった。
教卓の下に隠してあった鉄の扉を開き、地下へと続く階段を下りた。








一歩階段に足を踏み込めば、そこは本当にヤツラの巣。凍てつくような鉄の壁と、胸クソ悪い薬品の匂い。

暗く、恐ろしい、鋭利な刃物が体中にまとわりつくような、不快な場所だ。

楽しい夢の裏側にある闇に向かっているような錯覚があった。



これが現実だ。楽しい夢も悪い夢も俺にはない。

アルセリアを握り、俺は歩を進めた。どこからでも来るがいい。全部薙ぎ払ってやる。



「出て来い!!俺はここだ!!出て来て俺を殺してみろ!!」


階段を下りて出たのは、待合室らしき広い場所だった。
人が隠れていたのは分かっていた。俺が声を張り上げて呼べば無数の兵が顔を見せる。


15…いや20近い人数だ。全員出てきたと考えて妥当だろう。
俺は一斉射撃を喰らう前に施設の奥へと走った。

「ダルガフ、聞こえるか?そろそろいいぞ。入り口は入って左の教室の教卓の下。」

「…分かった。後は逃げるだけでも構わん、やり合うのは避けろよ…オイ?」




返答をせず、俺は通信を切った。

もう少し血が見たい。なに、ダルガフには迷惑をかけないさ。






「憂さ晴らしをさせてもらうだけ。」



手頃な広間を見つけ、俺はアルセリアを翳して振り返った。無数の殺意に向かって。



化け物め…

白銀の髪…あの女と同じだ。

裏切り者め…

殺せ!!

殺してしまえ!!

死んでしまえ!!



ヤツラのせせら笑いが聞こえる。
皆俺を笑っている。殺そうとしている。

聞かずとも分かる。その目が俺を睨んでいるじゃないか。

その目がせがんでいるじゃないか?

聞こえる、俺にはちゃんと聞こえているんだ。



母さんを殺したのは誰だ!?


ガントリニティ!!」






「ひ…怯むな、撃つんだ。」

「ダメだ!!弾が…当らない。」

「何をやっている!?ちゃんとよく狙ッ…」

「狙っている。狙っているのに…当らない、当らないんだよ。」

「バケモノめ、クソ!!バケモノめッ」

「殺さないでくれ。」

「やめろ!!撃つな…」

「撃つなぁああああああああああ!!」





………

………

………



最後の一人の断末魔を聞いて…俺は思い出した。



「母さんを殺したのは…俺だった…」



俺だったのに…



狂気と怒りの後には深い悲しみが訪れる。



俺は血糊を拭きながら歩き出した。



それを受け入れてくれる者の所へ…







バチっと、何かが擦れるような音がした。俺の歩を進めまいともう一度同じ音がした。

振り向けと言うようにもう一度。


アルセリアに弾を喰わせ、俺は振り返った。


「誰だ?」



俺の背後には男が一人立っていた。白衣に身を包み、ダルガフほどではないが鍛えられた体がその下から見受けられた。

鋭い目、逆立つような長髪。

そして殺気。


イジリ者か?
俺はとっさにそう思った。
普通ではない。コイツは真っ当に生まれてきたモノではない。


「白犬が赤犬になってやがる。へっ退屈しのぎには丁度いい。」


「誰だと聞いている!?」


「喋んのはキレェなんだよ。めんどくせぇ、抜け。」



俺がアルセリアを構えようとした瞬間だった。何かが俺の腕を掴んだ。

アルセリアは俺の手から落ち、カツンという音とともに床に転がった。


一体何が起きたんだ?
ヤツの接近を許てはいない。今もなお数メートルの間合いを保ってそこにいる。

では一体何が俺の手を掴んだというのだ?それも相当な力だ…まだ痺れが残っている。


痺れ…


あのバチバチという音。そしてヤツを見ると俺に手を翳している。


電流か。


何の武器かは知らないが俺はスタンガンのようなもので攻撃されたらしい。


この距離でも攻撃出来るのなら早く逃げなければ…



俺の考察が終わる前に次の攻撃が襲い掛かった。次は胴体部にかけて内臓から切り裂かれるような痛みが走った。
死に至る程ではないがこれ以上喰らえば意識が飛ぶ。


俺はとっさに物陰に隠れた。



「ビビってんのか?腰抜け野朗がッ!!」



ヤツの声が聞こえる。
あからさまな挑発…戦略的なものではない事は分かっている。乗るような俺ではない。
今出て行ってもあの電撃にやられるだけだ。

落ち着いて考えるんだ。もう一発喰らえば逃げるのもままならない。

電気は空気中を伝えばその力を減らすと聞く。さっきの間合いはおおよそ6メートル。
もう少し離れれば電撃の間合いから外れるはずだ。アルセリアの間合いに持ち込むんだ。



「面白くねぇ。焦がすか?」





またバチバチという音が聞こえる。今度は先ほどの非ではない。

俺は危険を感じ物陰から逃げた。

その瞬間俺が隠れていたコンテナから無数の光が散り、狂ったように踊り始めた。

ヤツの電撃だ。もしあれを喰らっていたら命は無かっただろう。


全速力で走りながらヤツを見ると、コンテナからは離れた場所に居る。最初居た場所からさほど離れてはいない。

電撃の威力は、最初のがマックスでは無かったのか。本気になれば俺を仕留められたのか


最早思考をめぐらせている猶予は無い。

射程、威力、弾速ともに最高の武器をヤツは持っている。次視界に入った時が俺の終わりか。

ガントリニティを使うしかない。



俺は再び物陰に隠れた。

さっき電撃を喰らった胴体部が痛む。こんな状態では発動は難しい。


「ずいぶんと珍しいモノを復興派は作ったんだな。電気ウナギでも混ぜ込んだのか?」


少しでも時間を稼ぐ為俺はヤツに挑発を言った。痛みが治まればガントリニティに集中出来る。


「珍しいのはテメェも一緒だろうがクソ犬が。知ってるんだぜ、テメェの能力の事は。」


知っているのか。いや、知らない訳がない。ヤツは復興派の番犬、当然だ。
だったら挑発がバレた。ヤツはすぐにでも俺を殺す気だ。

痛みは…まだだもう少し時間がいる。今は続けるしかない。



「おい、ウナギ野朗。お前は復興派で何を求めている?まさか帝国主義の立派な考えでも持っているとか?」


「戦う為に生まれた。だから戦う。それが生きる意味、理由。このジャスティス・オールウィナーの存在意。」


ジャスティス…正義という意味か。


「うおぉぉぉぁぁ…あぁああぁ」


唸り声のようなものが聞こえる。ジャスティスが闘争心をむき出しにしているのがよく分かった。
獣のようなその声に、俺の心が縮こまるのを感じた。
こんな威圧は初めてだ。


コイツはDNA設計から凶暴性を植えつけられたに違いない。その闘争心を満たす復興派護衛という環境。
敵ながら、駒を飼いならすのが上手い。


バチバチという音がだんだんと大きくなっている。次の一撃でやる気か。


こんな絶体絶命的な状況だというのに、俺の心はひどく落ち着いていた。
死を恐れているのではない。ガントリニティに頼っている訳ではない。

自然と俺はポケットへと手を入れた。コツンと音がして手に何かが当った。


「お守り…」


ポケットにはダルガフがくれた手榴弾があった。良く見ると炸裂弾ではないようだ。チャフ…と書かれている。
コイルをばら撒ける電子妨害兵器か。


使えそうだな。




「ガントリニティって言ったか。とっと使いやがれ、使わねぇうちに死んじゃもったいないだろ。あぁ?」



ジャスティスはバチバチと帯電をしながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

俺は手榴弾を左手に握り締め、ガントリニティを発動させた。



「コイツで…昇天だ!!」




ジャスティスは両の腕に電撃を集中させそれを一気に解き放った。その力と射程距離は先ほどの非でない。
そして通路全体を包むような攻撃は避ける場所も隠れる所もない。


俺は電撃と同時に物陰から飛び出て手榴弾を投げつけた。

大丈夫だ。ちゃんと見えている、この手榴弾をアルセリアで打ち抜けば…


アルセリアの引き金を引き、手榴弾を爆発させた。一斉に散るホイルがジャスティスの電撃を引きつけ、電撃の射程を著しく低下させた。
そのお陰で俺に届いたのは弱い電撃のみ、痛みはあるがこの程度なら逃げる体力は残っている。
ジャスティスは大技を使ったせいで大分消耗しているようだ。


「がぁあぁあぁあ」


くそ、誤算だった。あれだけの力を使っても今だジャスティスは更なる攻撃を仕掛けようとしている。
これでは間に合わない。

何か、何かきっかけがあれば…


その時だった。
激しい爆発音が施設揺らし、振動がジャスティスの体制を崩した。

ダルガフがやってくれたか。


今しかないと、俺は一瞬の隙をついてその場から逃走した。



「チッ、逃げやがった。クソが。」


獲物を失ったジャスティスは、腹いせに更なる帯電を繰り返し辺りの色を白へと変えた。













俺は傷ついた体を引きずり走った。
負傷に重なり、ジャスティスへの恐怖が体への負担を大きくしている。

もしダルガフの手榴弾が無かったら…ダルガフの爆破が無かったら…

俺は間違い無く死んでいた。



もう少しで出口だというのに、意識がだんだんと薄れてくるのに気付いた。



へたに戦わずに逃げていたなら…



死ぬのが怖い。



足がもつれもう歩くことも困難になってきた。
俺は壁によりかかり自分の行動を呪った。



これまで沢山殺してきたんだ。俺が一人死んでも割りに合わないぐらいの代価だ、別段おかしい事でもない。
普通の事だ。



そう思っていたのに…俺の右手は何かを掴むように前へと伸ばされている。
一体何を掴みたいというのだ。


もう終わり…だ…




だが倒れようとした体は誰かに包み込まれ、伸ばした右手はがっしりと握られていた。


「まだ終わっちゃいない。そうだろ?」


「ダルガフ…。」


「さぁ、逃げるぞ。まだ兵が残っている。」





そうして、ダルガフに助けられ施設を後にした。





試したかったのかもしれない。昔の自分を演じる事で今との違いを実感したかった。
手を伸ばせば握ってくれる人がいる。助けてくれる人がいる。

俺は一人じゃない。










車に走らせ、施設が見えなくなったところでダルガフが言った。


「とんでもないものを見たよ。全長10M、バカでかいバルカン砲を装備した怪物を。」


「そうか。爆破は、出来たのか?」


「あぁ、動力部にぶち込んでやったさ…」


「そうか。」


覇気の無い俺を案じたのか、ダルガフは煙草を燻らして渋い顔をしていた。


「なぁ、ダルガフ。」


「ん?」


「俺は今日。死ぬのが怖いと思った。」


「………お守りは役にたったか?」


「…あぁ無くなってしまったがな。」


「そうか。そいつぁーよかった。」


「…あぁ。」




ダルガフはわざと俺の話をはぐらかした。

俺が言った事はひどく当たり前の事なんだ。

子供でも知っている当たり前の事。



俺は何かを背負う事で、本当に生きるという事を知ったような気がした。







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