「超ミステリーサークルへようこそ」



ここには…誰もいない。


ただ俺のみが自分の存在を確認している。


俺が自分の存在を認識している。何故そんな表現をする?


俺が、俺の存在を認識している?


じゃあ一体俺は誰だ。目の前にいるこいつが俺なら…俺は一体誰なんだ?


一人じゃない…ここには俺という存在と、俺を見ている人物…


一体どちらが本当の俺なのか分からない。だが、ここには二人の存在が確かにいる。












小鳥のさえずりが耳を撫でた。

窓からは日の光がまぶたを白く染めている。

朝か…



俺は気だるい体をベットから引きずり出して着替えを始めた。

目覚めてから2日目、半分夢にも似た現実が本当に現実になった感覚がある。

今日も俺は何か答えを探すだろう。この屋敷にある数々の謎の答えを…



ノックを音と共に誉の声が聞こえた。朝の挨拶に来たのだろうか。

だがタイミングが悪い。今は着替え中だ…しかもズボンの…


「辰彦様、おはようございます。朝食をお持ちしました。」


「待て誉、待つんだ!!ストーップッ!!」


制止も虚しく、俺と誉の間を隔てていたドアは開かれてしまった。

「誉…」


誉は一瞬驚いた顔をして、頬を赤く染めた。その後うつむいたが笑いを堪えているようにも見えた。

17歳とはいえもう少女ではないか。俺はズボンを履きながら思った。


「失礼しました。確認もせずドアを開けてしまい。」


「いや、気にしないでくれ。朝食はなんだい?」


「辰彦様が昨日おかゆを美味しいと言っていただいたので和食を用意してきました。お口に合うかどうか。」


誉が用意してきた朝食はご飯、味噌汁、玉子焼き、焼き魚。一般的な日本の朝食だったが、個人的にはこの朝食は大歓迎だ。

なんと言っても味噌汁の匂いが心地よい。


「美味しそうだね。いただくよ。」


予想通り誉れの朝食は美味しい。早く誉を安心させようと感想を言おうと誉れを見ると、なんとも嬉しそうな顔をこちらを見ていた。


「誉…。」


「あ、申し訳ありません。あまり見られては食べにくいですよね。」


「いや、そんな事は無い。それにこの朝食はとてもいい。また明日も作ってくれるか?」


「はい。喜んで…。」


誉はますます幸せそうな顔で朝食を食べる俺を眺めていた。

誉はいい人格をしている、少なくとも俺に害を与える事は無い。例え隠し事があったとしても。


「そういえば昨日雫に会ったよ。」


「姉さんにですか?」


「あぁ、夜庭に出た時にね。とても不思議な人だった。」


「姉さんは少し変わった所がありますしあまり愛想がいいとは言えませんが、とても優しい人です。どうか誤解なさらないでください。」


「大丈夫だよ。雫はそんな人じゃないって分かってる。」


「そうですか。それで辰彦様…夜庭に出たとおっしゃいましたが、何をしてらしたのですか?」


途端に、誉の表情が冷たくなったのを感じた。

雫といい誉れといい庭に出る事を良く思っていないようだ。

俺はわざと味噌汁を口に運んだ。動揺を隠し、少しでも言い訳を考える時間を稼ぐために。


「あぁ、昨日は月が綺麗だったからね。少し眺めていたんだ。」


俺がそう答えても誉れの冷たい表情は変わらない。不自然に間を取ったのはまずかったか…


「そうですか。ですが夜風は体に障ります。病み上がりの身ですので自重していただかないと。」


これ以上探る事は出来ないと踏んだのか誉は元の柔らかい表情に戻った。これではっきりした、庭には何かしら俺に知られたくない秘密がある。そしてそれは恐らくあの土蔵。


「分かった気をつけるよ。」



「そうだ、辰彦様。」

誉は食器を片付けながら思い立ったように言った。

「ん?なんだい?」


「お体の具合がよければ、辰彦様が通う事になる高校へ見学にいかれてはどうですか?」


「高校か…そうだな。早いうちに行ったほうがいいかもしれないな。体も特に悪い所は無いし、いつまでも寝ている訳にもいかないしね。」

「そうですか、では学校のほうへ連絡しておきますね。本日は日曜日なので校内の人間も少なく、見学には丁度いいと思われます。」











さて、高校へ来たはいいが俺は拍子抜けしている。自宅が立派な屋敷だったので学校もさぞかし高貴な所だろうと気負っていたのだが、何処をどう見ても普通の学校だ。

というより、屋敷周辺の土地が比較的田舎な為、高校がここにしかない。元々場所が場所って事か。



俺は校舎の中へ入り学校内の見学を始めた。体育館に美術室、音楽室に図書室…大体の場所は把握した。


「後は各教室を眺めて終りか。」


俺が歩を進めていると、途中怪奇なものに遭遇した。

それはサークル活動に使う部室のようだが、どうにも怪しい雰囲気が漂っている。部室の看板には「超ミステリーサークル」と書いてあった。

これはミステリーサークルのサークルなのだろうか、ミステリーのサークルなのだろうか。

暫らく考えていると、全くの時間の無駄だと思いサークルの扉に手をかけていた。


「すいません…。」


扉を開けるとサークル名に匹敵するほどの奇怪な光景が俺の目に飛び込んできた。部員と思われる女生徒が一人でこっくりさんをしている。その目つきは真剣そのものだ。


「あ、見学の方でしょうか?」


「あ、」


女生徒は俺に気を取られ十円玉に乗せていた指を離してしまった。


「きゃああああああああ。どうしようどうしよう、呪われるわ、呪われるわ。もうお終いよ、死神に魂を取られてしまうんだわー!!」

「お、落ち着いてください。」


取り乱した女生徒をなだめるのに、10分と、俺の体力を7分使ってしまった。


「はぁはぁはぁ。」

「はぁはぁはぁ。」



「すみません大騒ぎしてしまって。先週こっくりさんの呪いを解く方法を研究したばかりでした。」

「そ、そうですか。それは良かった。」


俺はこの部室の扉を開けてしまった事を酷く後悔した。取り合えず一刻も早くここを出よう。



「それでは俺はこれで…。」


「待ってください!!」


部室の扉に手をかけると、女生徒は大きな声で俺を呼び止めた。行きはヨイヨイ帰りは怖い、というヤツか…


「はい?」


「見学に来てくれたんですよね?実はこのサークル部員が私しかいなくて廃部寸前なんです。」



あぁぁああぁ、泥沼状態だ。切り抜けよう、ここはなんとか切り抜けよう。


「すいません。急用を思い出しました。これで…。」


適当な嘘で俺が部室から出ようとすると、女生徒はとどめとばかりに、わら人形と五寸釘を持ち出しこちらを睨みながら構えている。



「分かりました。お話を聞きましょう。」



俺がそう言うと、女生徒はにんまりと笑って席に着いた。


「私は超ミステリーサークル部の水島 宝子(しずしま ほうこ)これでも部長なんだから。」


そりゃ部員一人なら部長でしょうね。
俺は心の中でその叫びを堪えた。


「活動は主に不思議な事を研究するの。先月はなんとこの学校の7不思議を余す事なく書き綴ったこの学校の7不思議解体新書を製作したのよ!!」


「そうですか。」


「他にも町に現れた未確認飛行物体のレポートや、グレイ出没地点でも超常現象を調べたり。どう?楽しそうでしょ。」



やばい、この空間にいたら心の何かが変になってしまう。とりあえずここから外へ出なくては。


「あの、宝子さん。」


「はい?」


「水をさすようで悪いんだけど、実は俺転校生で学校の見学に来たんだ。案内してくれないかな?」




そうして俺は何とか部室からの脱出に成功した。しかし宝子さんの学校案内は施設よりも7不思議に重点が置いてあり、部室にいるのと余り変わらない空気が二人の間に広がっていた。



方耳で学校の7不思議を聞き流していると、俺はあるクラスから不穏な気配を感じて立ち止まった。

教室に並べられた一つの机には、花瓶に刺した花が飾ってある。何か不幸な事が起こったのだろうか。



「この教室の生徒、殺されたのよ。」



俺が立ち止まって教室を眺めていると、宝子さんが一変して真剣な表情で言った。



「何でも路地裏でミンチになって発見されたって。まるで何かに食べられてその残りカスみたいだったって話。」


「何かって、熊とかかな?」


「いくらここが田舎だからって、町まで熊がおりてくる事なんてないわ。かと言って犬や何かが人間を食べるはず無い。」


「じゃあ一体何が?」


「学校じゃ、食人鬼が出たって噂が立ってる。」


そんな馬鹿なと思っているはずの俺は、そうかもしれないと頭じゃない所で言っている。人が人を食べている光景が、容易に俺には想像できた。被害者の顔も、犯人も顔も見たことないのに。



「事件があったのは先月、無くなった人は気のいい男子生徒だったから、学校全体に不穏な雰囲気が広がってるわ。もしかしたらこの中にその食人鬼がいるかもしれないって。」



唐突に、俺は以前あった。不思議な体験の事について思い出していた。暗い室内で目覚めた事、死体、そして何かを隠すような屋敷の人間。俺の周りには不可思議な事が溢れている。



「私は今密かに犯人を捜している。皆互いを疑ったりばっかりしてるこの学校を元に戻したいの…協力してくれる?」


その時、宝子さんが言った事が物凄く偉大な事のような気がして、俺は首を縦に振ってしまった。後から後悔するとも知らずに。




























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