「銀河鉄道の夜〜サチコクエスト・勇者光臨編〜」




どうも…風間…丈介です…



現在午後11時、俺はベットの上で昨晩の事を考えていた。

そう…口にするのもおぞましいあの事を…


話の成り行き上青葉が俺にせまるのは分かっていたが、まさかあんな(ベットイン)事になるなんて…


やったのは俺だ。それは認める。

しかし…しかしだ。俺は青葉と結婚したいだなどど一切思っていない。なのにこんな状況に追い込まれるのはどうも筋が通らない。


きっとあれだ。俺の知らない世界の力が働いているに違いない。


例えば闇の魔王とか世界制服を企む科学者とかが…きっとそういう闇の住人が俺の運命を弄んでいるんだ。…多分…


いいや、そうだ。そういう事にしよう。


だが一体誰が…



……


……

(さ・ち・こ・さ・ん)





「アイツかぁ!!」




俺は一人の人物を彷彿し、急いで部屋から飛び出した。………のだが………


「痛い兄さん。」


「は?」


なんと青葉は俺の知らぬ間に自分と俺の手に手錠をかけていたのだ。前にもやられたが…まだやっていたのか。



「兄さん…私を置いて何処へ行くつもりです?」


青葉は、怪しいぃ〜という言葉が聞こえてきそうな顔で俺を見つめている。



「え?いや、その〜ト、トイレだ。最近近くてさ。」



適当な言い訳に青葉の疑いが晴れるはずもなく、疑いの目で俺を見つめている。



「夜中…トイレ……むぅ〜」



「青葉?」



なにやら青葉が考え始めた。一体なんだっていうんだ。



「ハッ…兄さん。」


「な、何だ?」


何を思いついたのだろうか、どうせロクな事で無い事は分かっているが。


「そうですか、そういう事でしたの。」


「え?なんだって…うぉ。」



青葉はニヤニヤしながら俺を押し倒してベットに伏せた。
俺は突然の事に驚いて無抵抗のままだった。


「オイオイ、青葉さん?一体何だっていうんだ?」


「私が早く寝てしまったので持て余していたのでしょう。青葉は何でもご存知ですのよ?」


やっぱりそっち方面の思いつきか。クソ、あの夜がきっかけで前にも増して大胆になってやがる。
あぁ、もうバットエンドが見える。

だだだだ、ダメだ。


止めろ、シャツのホックを外すんじゃない。


「兄さん…」




「丈介チョップ!!」



俺は気合を込めた手刀で手錠の鎖を切り裂き、部屋から脱出した。

格闘家でもなければマジシャンでもない俺が鎖を断ち切るなど無理だが、こういう時はツッコミは無しだぜ。マジで切羽詰まってる。




一人残された青葉はベットの上で走り去る俺を驚いた表情で見ていた。


「兄さんったら…」













「はぁ、はぁ、何処だ?幸子さんは何処にいる。」


俺は全力疾走で電車の中を走り回った。しかし、幸子さんの影は何処にも見当たらない。

一体何処にいるっていうんだ。



「ハァ、ハァ、ハァ…」


俺が走るのに疲れ両膝に両手を乗せて立ち止まった。その時、頭に二つの柔らかい感触が…


こ・れ・は…



「わぁぁ、ごめんなさい。」


おそらく俺の頭に女性の胸が当ったのだろう感触に気付き、俺は後ずさりしながら謝った。



「あぁら、いいのよ別に。肉欲 棒太郎君。ハァハァ言うのはベットの上だけにしなさいね。」


つらつらと皮肉を並べるその人は…



「幸子さん…か。」


「そうよん?何か呼ばれたみたいだから参上しました。」


こっちは必死だというのにおどけやがって。この人が本当に犯人だとしたら許せん。この人こそ魔女狩りに合わなければならん。




「幸子さん、俺は前々からどうもオカシイと思っていたんスよ。」


「あぁ〜ら何が?」


「健全なはずの俺が妹とアレな関係になるなんておかしいと思いませんか?」


「いいんでないの〜?」


俺が探りを入れても幸子さんに全く動じる様子はない。
やはりそうだ、この冷徹な性格。そして何よりあのあだ名が気に食わない。きっとこの人だ、絶対この人に違いない。

犯人はテメェだぜ。



「あんたのマジカルパワーが、俺の運命を操ってるんじゃないんスか?」



勢いよく言った台詞だが、俺自身アホだと思っている。
調子に乗って人差し指を幸子さんに向けているが、だんだんとこれでいいのか?俺、と思いはじめてきた。


幸子さんは俯いたまま黙っている。


「さ、幸子さん?違ったらスイマセンね。」


「………」


幸子さんは以前黙ったままだ。マズイぜ、傷つけちまったかなぁ。

少女というにはもう手遅れだが、幸子さんだって女だ。傷つきやすいハートを持っているに違いない。


「幸子さん、俺の勘違いだったようです。変な疑いかけてすいません。」



「あらそう?じゃぁね。帰ってドラマ見よ〜。」


俺がそう言うとさっきまでの落ち込みが嘘のように立ち直り、幸子さんは普段と変わらない様子で立ち去ろうとした。

が…こんなもんで納得する俺ではない。何だ今の変わり身は…




「って幸子さん!!やっぱアンタかぁ。」





「ほほほほほ、遂に気付いたようね。いかにも私がアンタと青葉ちゃんがくっつくように影ながら、本当に影ながら応援していたのよ。」


本性現しやがった。やっぱり幸子さんが犯人だったんだ。
クソ、俺の運命を弄びやがって。



「レストランのメニューに無いスッポン料理を出したのも私なら、夜密かに青葉ちゃんとアンタの腕に手錠をかけたのも私よ。」



「やっぱりそうだったのか。前に使ったパワーで時間を元に戻しやがれ。」




「嫌よ。アンタと青葉ちゃんはくっついてもらわなきゃ困るのよ。」



「なんでだよ。俺に明るい未来は無いのか。?」



俺が幸子さんと揉めている時だ。タイミング良くそこへ青葉が駆けつけてきた。

このタイミングは…ナイスというか漫画的タイミングだ。


「兄さん。その方は一体?」



いつもならコイツの顔など見たくはないが今はOKだ。幸子さんの陰謀を説明してコイツときっぱり別れてやる。いいや、元々付き合ってないんだから別れるというか…

エエイ面倒くさい。元の何処にでもある兄妹に戻るんだ。




「青葉ぁ、良く聞け。俺たちはなぁ…」




俺が叫ぶと、それが言い終わる前に幸子さんが青葉を抱き上げた。…一体何を?



「もうこうなったら最終手段よ。青葉ちゃんは頂いていくわ。」



そうして、みるみる内に空間が歪み幸子さんと青葉の姿が消えて行く。

幸子さんのマジカルパワーか。何処かへテレポートする気だな。流れ的に…



「青葉ちゃんを取り戻したかったら次の星で降りて魔女の城まで来る事ね。まぁ半端な覚悟じゃ来れないけど…オホホホホホホホ。」


幸子さんはそう言って何処か知らぬ場所へと消えていく。


「兄さん!!兄さん!!」


しきりに青葉が助けを求めて俺の名を呼んでいたような気もする。俺のほうへ手を伸ばしていたような気もする…が、俺は目の前で起きた超常現象に驚きの余り動けないでいた…事にしてくれ。














俺を残し、二人はその魔女の城という所へ行ってしまった…と思われる。



「フリーダム!!…自由だ。幸子さんも青葉も居ない…なんて幸せな世界なんだ。」


思わずスキップしたくなるような気分で、俺はガッツポーズをした。

だって…だって…もうあの悪魔にオドオドしながら生活する日々は終わったのだから。




「あ、それと助けに来ないとあのビデオ、ネットにのせるから覚悟しなさい。」



何処からともなく、幸子さんの声が聞こえた…



「……………………………………ジーザース(神様…)」



俺は神を呪った…





















そうして…



電車は木星に到着し、俺は幸子さんに言われた通りその駅で降りたのだが…だが…



「だがぁぁあああああああああ」



一体ココは何処だっていうんだ。俺がテレビで見た木星は開拓進んで、今じゃ近未来的なビルがズドンズドン建っているハズなのだが…


「何処だ…ここは?」




俺の目に映っているのは中世の古びた町並みに、コスプレ?のような服を来た剣士や魔法使いの方々。


普通の服を来た人間が全く居ない。少年も少女もネェさんもニィさんも、オッサンもセクシー美女も…爺さんも婆さんも…



「ファンタジーだ。ゲームのような世界に迷い込んじまった。」



俺はいつかやったRPGを思い出した。そういえばあのゲームもこんな世界だったな…


これも幸子さんのマジカルパワーなのか…?



「ハハ…ハ…」


俺は呆れて笑い声しか出なかった。今見ているのが夢で無いとすると、俺は魔女の城へ行って幸子さんを倒さなければならなくなる。




「どうしよう…」




どうする?

RPGはやった事あるがリアルでやれって言われても気が乗らないし、何より怖い。モンスターとかマトモに戦って勝てるのか?確かゲームじゃ回復してたけどずばずばダメージ食らってたぞ。しかも死ぬし…

牧師とかが生き返らせてくれるのだろうか。イヤイヤ、でも一回だって死ぬなんて嫌だ。



「どうするよ?俺…。」




子供の時分なら胸ときめいてこの世界でダイブする所だが、俺は生憎もう卒業した。集めていたトレカも捨てたし、ゲームだって最近やってない。

なんだってこんな役回りが俺に


「…誰か…たすけ…


いつもの俺の台詞を言いかけて、何か魔力的なものが俺の口を押さえた。どうやらまだこの台詞を吐くには早いらしい。
こんな話早く終わらせて作者が忘れてくれるのを企んでいたが、どうやらまだまだやるようだ。


「クソ…そんなに俺を困らせたいか?」




そうして、暫くこの世界に困惑していると遠くで子供の声が聞こえた。

俺が目をやると道端で子供達が一匹の猫をいじめているのが見える。

いくら変な世界に来たからと言ってモラルを失ってはいけない。変わらぬ不幸より目の前で起こっている事を考えよう。


俺は子供達を睨みつけながら近寄り、そいつらの服を掴んで持ち上げた。



「コラ、ガキども。猫をいじめちゃダメだろ。」


俺の怒声に一瞬怯んだようだったが、子供達は即座に結束し反論を返した。



「だって、コイツ真っ黒じゃないか。きっと悪魔の使いだよ。」



一人がそう言うと他の子供も頷いて俺に迫った。

悪魔の使いか。お前らは本当の悪魔を見た事が無いからそういう事が言えるのだ。


「ハッハッハ、俺がその悪魔さ。お前等全員喰っちまうぞ!?」


俺が脅かすと子供達は泣きながら逃げていった。少し怖がらせすぎたか…
まぁ…目には目をだよな…



俺はいじめられていた猫を抱き上げると怪我が無いかを確認した。



「大丈夫か?あんまり町に出てくるんじゃねぇぞ?」



「ありがとう…」



………?え?


喋った?


猫が喋った?


猫が…

いや、変な事が続いて頭がどうかしてしまったのだろうか…




「お前今喋ったよな?」

俺はおそるおそる猫に喋りかけた。




「危ない所を助けていただいてありがとうございます。」


やっぱり喋った!!

イヤ、落ち着け。変な事はもうとっくに起きているじゃないか。ここはもう俺の知っている世界じゃないファンタジーなんだ。
猫が喋ってもおかしくない…



俺は思いっきり深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「平常心…平常心…」


俺がギリギリの所で精神崩壊を防いでいると、猫が何かに気付いた様子で喋りかけてきた。



「もしやアナタは丈介さんじゃありませんでしょうか?」



「ん?あ、あぁそうだよ。」



「これは申し送れましたボクはカインと申します。実はボクはアナタに会う為はるばるこの町までやってきたんです。」


猫が俺に会う為に?

イヤ、ちょっと待てよ。これはもしかしてイベントというヤツではないだろうか。俺は早くもこの世界に引き込まれてしまったのではないだろうか。

もうここまで来たらごねてても仕方がない。どの道幸子さんには会わなきゃいけないんだ。




「それで、俺に何か用なのか?」


「それが…酷くご傷心のようですね。」

俺の気持ちを察してか猫のカインは俺に言った。俺を心配してくれるのは猫ぐらいか…


「あぁ、ちょっと色々あってな。それで、話を続けてくれ。」


「えぇ、実は丈介さんに悪い魔法使いを倒してこの世界を救っていただきたいんです。」


ある程度予想はしていたが、やっぱりそう来たか。俺はどうやらこの世界の主人公らしい。


「俺が?俺が世界を救うの?無理だよ〜だって俺、剣とか魔法とか使えないし。もっと適任のヤツがいるんじゃないかな、俺はソイツにくっついていくだけでいいからさ。」


「いいえ、丈介さんじゃないとダメなんです。」

「何ゆえ?」


「この世界には火水地雷の魔法が存在します、どんな人間も生まれつきどれかの魔力を持っており、それぞれ得意不得意の関係にあります。」


「なるほどね、火は水に弱くて水は雷に弱いみたいな?」


「そうです。その魔力はその土地の風土によって左右され、均衡を保つ為に1つだった世界は4つに別れました。」


「そう…いいじゃん。」


「ですが、その内の火の国に現れた悪い魔法使いは闇の魔力を持っており、どんな魔法も効かないのです。」


「あら大変。」


「火の国は他の国に戦争を仕掛け、悪い魔法使い率いる軍団に支配されてしまいました。」


「それは…大変だな。」


「悪い魔法使いは別な世界から来たとという噂があります。悪い魔法使いを倒すのは、同じように別な世界から来たあなたしかいないのです。」


あぁ〜説得入っちゃったよ。やっぱり俺が戦うしかないのか…
どうやらその悪い魔法使いが幸子さんのようだな。


「それで、俺はどうすればいい?」


「やる気になっていただけましたか。」


猫のカインは嬉しそうにニャーと鳴いた。コイツはまともなヤツ(猫)だし、まぁなるようになるだろう。

あのビデオを流される訳にもいかないしな。



「あぁ、やってやるさ。どうせやるしかないしな。それで、どうすればいい?」


「えぇ、まずは身なりを整えましょう。」


カインが右手を上げてニャーと鳴くと、ずっしりと重量が体にかかった。
見ると俺の服はこの世界にぴったりの鎧に包まれている。


「うお、こんな事も出来るんだな。」


「えぇ、どうです気分出てきました?」


「あぁ、なんかやる気が出てきたぜ。」


「ではまず、火の国のお姫様を…」


お姫様か…なんだろう。助けだすのかな?悪い魔法使いに逆らって逃げた所を捕まったのだろうか。


「殺しましょう。」



「倒すのかよ!?」


予想を裏切って放たれたカインの言葉はお姫様暗殺。お姫様と言えば救出すると相場が決まっているのだが…


「なんでだよ。」


「悪い魔法使いの手先なんですよ。そういうヤツはバッサバッサ殺して血路を開きましょう。」


「…お前…」


俺は少しカインが怖くなった。


















火の国のお姫様を殺すべく、俺とカインは水の国へと向かった。


最初いた町を歩き出して数分、せっかくなので水の国へ行く道をカインに聞くことにした。今頼れるのはコイツぐらいだ。


「なぁ、お前…いや、カイン。」

「なんですか?勇者様。」


勇者…か。

なんだかその響きは俺の中の少年ハートを激しく揺さぶる。

男なら誰しも勇者に憧れるものだ。


俺は少し得意になってカインに質問を続けた。


「水の国までは近いのか?」


「二つのルートがあります。長いけれど平和な道と、短いけれど地獄のほうがまだマシと思うような道があります。」


「前者!!断固前者!!」


出来れば戦いは避けたい。つーか地獄のほうがまだマシとかやってられるか。
それなら足を使ったほうがいい。

俺は長いけれど平和な道を当然の如く選んだ。




そして…



長いけれど平和な道の入り口…



俺には…物凄くデカイモンスターがいるように見える。

体長5メートル強、角が4本あって闇のように真っ黒な体をしている。



「なぁ、カイン。なぁカインカインカインカインカイン!!!!」


「勇者様そんなに動揺しないでください。」


これが動揺せずにいられるか。何が平和な道だ。
いきなりファイナル的なモンスターに出くわしたじゃないか!!



「あれは…何だ?」

俺はモンスターを指差してカインに聞いた。


「あぁ、アレはこのフィールドのボス バフォメットスペシャルです。5000年に一度しか現れないと聞きましたがまさかそれが今日だなんて…」


カインはお気楽に答えたがこっちは足が笑いを堪えている。いや、体中で笑いを堪えてる状況だ。



「それで、どの位強いんだ?」


「勇者様がレベル1で、バフォメットスペシャルがレベル255です。」


か…確実に殺される。


「どーすんだよ、どーすんだよ。アイツ倒さなきゃ先進めねんだろ!?」



「もう一つの道を行くしかないですね。」



もう一つって、地獄のような道…なのか…?




「いやだい、いやだい。平和な道を行くんだ〜〜」

俺は恥じも外聞も捨てて泣き叫んだ。こんな目に合うならビデオを流されたほうがいいような気もしてきた。



「ん〜、仕方ないですね〜。」



「え?まさかお前別な道を知ってるのか?」


「いえ、知りません。」



「んだよ!!」



「ボクが殺して道を開けましょう。」



冗談ぬかせ…と言いかけて、今までとは違うカインの雰囲気に俺は飲まれて言葉が出なかった。
先ほどまでただの猫だったカインは、今では腹を空かせた虎がそこにいるかのようにも思わせた。


「丈介さん、まずボクに仲間になってくれと言ってください。」


「え?あぁ、分かった。」


カインの不思議な頼みに、俺は素直に従った。



「カイン、俺の仲間になってくれ。」



「…承知、勇者様にこの魂を預ける。」


…、これで一体何が変わったというのだろうか。別段何が変わった風でもない。


「これでボクは正式に勇者様のパーティーに加わりました。それでは次のお願いです。少し目を閉じていてください。」


また変わった頼みごとだ。しかし、もうつっこむような流れではない。俺は素直に従った。


「…これで、いいのか?」


「そのままじっとしていてください。」



んちゅ〜




「ぶぁああ。ぶぁは、ぶぁは。」

湿った感触が唇から伝わり、俺は即座に目を開けてぺっと口の中の唾液を吐き出した。
妹の次は猫に唇を奪われるとは…くっそ〜



「おい!!カイン、何しやがる…え?…え?…エェェェエエエエエエエ!?」



猫のカインはもういない。いるのは…



「丈介さん、驚かせてしまいましたね。これがボクの本当の姿です。」



雪のような真っ白な髪の毛に、血のように赤い瞳、どこかで見た誰かを彷彿させる出で立ちをした少年が俺の前に立っていた。
腰には3つの銃がぶらさがっており、ソイツが放つ殺気はガンマンのソレに近かった。


「お前がカイン…なのか?」


「すぐ終わらせます。敵の攻撃が当らないように逃げていてください。」


「あ、あぁ分かった。」



何が起きているのか全く理解出来ないが、仮説を立てるとすると猫の正体があの少年で俺のキスで元の姿に戻ったらしい。
それでカインはあの超絶モンスターをこれから倒すような流れだ。

しかし、出来れば女の子が良かった。また一つ忘れたい過去が重なってしまった。


俺は木の陰に隠れながらモンスターに立ち向かうカインを見ていた。

カインはまず2丁の拳銃を両手に構えた…ん?どうやら3つの内2丁は鎖で繋がれているようだ。左手に持っている銃に鎖に繋がれて三丁目の銃がぶらさがっている。




「グオォォオオオオオオオオ!!」




モンスター雄たけびが大地を揺らした。獲物を見つけて高揚しているのだろう。

クソ、カインがあんなバケモノに勝てるのかよ。


バフォメットスペシャルはカインを見つけるやいなや口に火炎を溜め始めた。



「あ、あれは上級モンスターによくある口からファイヤー。」


アレはマズイ。マズすぎるぜ。
主人公補正の無いカインがあんなもん喰らっちまったら黒こげ間違い無し。イヤ、俺は主人公だがアレを喰らったらチリも残らなそうだが。



「カイン逃げろ!!」


俺は精一杯叫んだ…が…

今一歩遅かった。モンスターの口から放たれた業火は人間を3度は焼き尽くすほどの威力でカインに喰らいついた。



「…カイン…」



俺が足をすくませていると、上空から人の気配を感じた。

まさか…と思ったが俺の予想は当っていたようだ。

カインはぎりぎりの所で宙に逃げていたようだ。


「よかった、カイン。生きてたんだな。」


だがヤバイ。高く飛びすぎたせいで次の攻撃が避けられない。

バフォメットスペシャルは鋭い爪を構えてカインを狙っている。

このままじゃ…




しかしカインの目は今だ冷ややかだった。恐怖も、動揺も見受けられない。

カインは鋭く3つの銃を構えた。



「駆けろ龍砲、吼えろ虎砲、未来を導け白銀銃!!」

(ガン・トリニティ)

カインは心の中で叫んだ。






俺は…俺は…

何があったかを一部始終見ていた。なのに目で捉えたそれを脳が受け入れてはくれない。

カインは、一瞬の内にモンスターを肉塊に変えた。



「終わったにゃ〜。」


カインは何も無かったように猫の姿に戻ってこちらに帰ってきた。


「にゃ〜ってお前、今の一体なんだったんだよ!?」


「それよりホラ、見てくださいよ勇者様のレベルがめっさ凄い上がりましたよ。」

「え?」


そういえばさっきからラッパの音が絶えず空から聞こえてくる。これって例のアレか?レベルアップ音か?

ラッパの音は俺がレベル55になった所で止まった。一気にレベル55とかどんだけ経験値あるんだよ。
つーかそれを倒したカインはなんだ…



「これで勇者様もまともに戦えるようになりましたね、そこら辺の雑魚なら一撃ですよ。」


「OK分かった落ち着いて話をしよう。お前さっき何やったんだ?」


レベルが上がったのはありがたい。だがその前に片付けなければならない問題が山ほどある。


「どうやってあのバケモノを倒したんだ?」

俺は詰め寄ってカインに聞いた。



「三つの銃でヤツの急所を30回打ち抜きました。口径の大きい銃龍砲が頭に6000ダメージを7発 連射のきく銃虎砲で2500ダメージを14発、三つ目の白銀銃で4200ダメージを9発。敵のクロウは足で蹴ってかわしました。」



たんたんと訳の分からない事を喋りやがる、このクソ猫が!!テメェも不思議の国のヤツラなのか?
イイヤツを気取って俺を暗黒の世界に引きずりこむ気だな?コイツも幸子さんの手先なのか?

いや、止めよう。今だって俺を助けてくれたじゃないか。ネガティブになるのは俺の悪い癖だ。



「なぁカイン。お前がそんなに強いならこれから先も余裕だな。」


「いいえ、それがソノ。あの姿になれるのは後一回きりでして、5分たつとまた猫に戻ってしまうんです。それに…また  キス  しないといけないし。」


「オス猫のクセに頬を赤らめるんじゃねぇよ!!」


くっそ、後一回しかなれねぇのかよ。しかもコイツ変な気がありそうだし嫌だぜ。


んむ…しかしレベル上がったって事は俺も強くなったって事じゃないか。どうにかなるんじゃないだろうか。見たところここは序盤だし。
イヤ、待てよ。短いけど辛い道でもこのレベルなら余裕なんじゃないだろうか。


「なぁカイン。もう一つの道もこのレベルなら余裕じゃないか?」


「そうですね、大丈夫だと思います。」






そうして俺たちは。上がりまくったステータスを頼りに迫り来るモンスターをばっさばっさ倒しまくった。

ハーピー 大イノシシ アークデーモン リヴァイヤさん  シャイニングウィザード(ムエタイ選手型モンスター) 邪悪な僧侶 ダークナイト


色々な敵をぶっ倒し(大イノシシの肉は美味しくいただきました。)俺たちは遂に水の国に着いた。




さぞ綺麗な国を想像していたが…



城下町は火の国の兵士に占領されており…逃げ延びた人間狩りが行われていた…


俺があまりの悲惨な光景に目を丸くして見ていると、兵士の大将らしき大男が大声で叫んでいた。




「男は、殺せ〜〜!!女は○せ〜〜〜!!」




なんて野蛮ムード…


カインは兵士の大将を指差しながらにっこり笑って言った。


「勇者様、まずはアイツを血祭りにあげましょう。民を守るのも勇者のつとめですよ。」


「アイツを?俺が?俺が?アイツを?」


見たところメチャクチャ強そうだ。それにあの目は10どころじゃない人間をヤッてる。


「殺されます。」


「大丈夫ですよ。アイツ動きトロイから余裕ですよ。パワーあるから一撃もらったら即死ですけど…」


帰りたい…地球に帰りたい。こんな訳の分からん鎧を脱いで地球に帰りたい。

もうここら辺で言ってみよう。案外素直に言えるかもしれない、あの言葉を…




「誰か助けてくれ〜〜〜〜〜!!」



言えた…





END

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