「銀河鉄道の夜〜背徳編〜」
もう挨拶をするまでもないだろう。
俺だ、俺オレ。風間 丈助だよ。
悪いが今日は丁寧に挨拶している余裕は無い。
ただ、俺は昔からトマトが嫌いだったんだ。
別に食ったからって死ぬ訳でもないし具合が悪くなる訳でもない。でもせっかく食事するならトマトだけは避けたい。
楽しむべきはず食事に何故嫌いなものと格闘せねばならないのか。
そう思っていたんだ。
それが同じ部屋にずっと置いてあるだけで、忌むべき存在のはずだというのに。
俺は手を伸ばして真っ赤なトマトをガブリと丸かじりにしてしまったのだ。
オレが嫌いな味が口一杯に広がったというのにトマトの味をよく覚えていない。
もしかしたら、俺はトマトなど食べなかったのではないだろうか?
落ち着いて、落ち着いて考えてみよう。
体は…疲れている。
枕は…YESが2つ
ゴミ箱は…ティッシュで一杯。
や…やっちまった…
そうか、俺はトマトを食べたんだな。トマトを…
涙が溢れてきた。
母さん、僕はダメな子です。父さん、僕はバカな子です。天国のおばあちゃん早くあなたの傍に行きたい気分です。
俺は青葉に気付かれないように部屋を出て銀河に向かってあの人の名前を叫んだ。
「幸子さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「んだよ?」
「うひゃぁ!!」
一体何処から現れたのか幸子さんは大声で叫ぶ俺のすぐ傍に現れた。
最初から居た?いや、そんなハズは。
「さ、幸子さん。一体何処から?」
「ん〜次元のひずみぃ?」
いや、幸子さんにそんな常識的なツッコミは無効だ。そうだよ、そんな幸子さんに会いたかったんだ。
この非常識な人に、この非常識な状況を非常識的解決をしてもらうんだ。
「さ、幸子さん。実は折り入って頼みが。」
「なぁ〜にぃ?言ってみなさいよ、肉欲 棒太郎君。」
変なあだ名付けられてる!!
幸子さん、それはちょっとやりすぎっていうか知ってるぞこの人。
事態の全てを把握しているに違いない。
「…幸子さん。分かっているなら話が早い。幸子さんのマジカルパワーで何とか…」
俺が話をしているにも関わらずディスクを取り出してニヤニヤと笑い始めた。
ディスクには卑猥なタイトルが刻まれている。
まさか、いいやまさかそんなハズは無い。
「シスターラブ!!〜開通作業〜」
「ってオイ!!」
「いや〜、たまたま歩いてたら、たまたまイイ絵があったもんでね。たま〜たま持ってたビデオでね。」
幸子さんは後ろ頭をかいて舌を出しているが、確信犯だ。完璧なる確信犯だ。
「それ、マスターっすよね。」
「えぇ、まだコピーしてないわよ?」
「いくらッスか?」
「3千円よ。」
俺は財布から札を三枚取り出し、震える手で幸子さんに手渡した。
若さゆえの過ち。それを今体験している。
俺はこの過ちの記録を貰った瞬間叩き割った。
「まぁ他にも続編が続々と、ちらほらと…」
幸子さんは何処から取り出したのかディスクが続々と、ちらほらと…
「さ、幸子さん…」
「ごめんごめん、それで何の用?」
「モー!!分かってるくせに、助けてくださいよ。なんかこう時間を戻すなり事実を捻じ曲げるなり。」
「ばかっツラぁ〜」
「ぐはぁ。」
いきなり殴られてしまった。それも赤ちゃん風に…
「アンタも男なんだから腹決めなさいよ。ヘタしたら相手は腹がデカくなんのよ!?」
ひ、ひでぇ。いくらなんでもネタがヒデェ。青葉だってそんな事言わねぇ。
「それを時間を戻す?事実を捻じ曲げる?夢みたいな事言ってんじゃないわよ。」
「幸子さん。説得力ないッス。」
「シャラップ。いい事、アンタがやった事なんだから自分でなんとかなさい。」
そう言って幸子さんは行ってしまった。
よくよく考えてみれば身から出た錆、自業自得。俺が悪いんだよな。
いくら迫られたからって妹に手を出すとは。サルでもしないぜ。
「リストカットって…どんな髪型だっけ?」
俺は肩を落として部屋へと戻った。
部屋のドアが重い。この扉を開いたら中にはヤツが…
「あ、お早うございます兄さん。」
「あぁ、青葉おはよう。って、あぁ…」
青葉はせっせと自分と俺の下着を干している最中だった。
今更とぼけても仕方ないが、やれるだけの事を俺はやるしかない。
「な、なぁ青葉。ずいぶんと嬉しそうじゃないか、何かいい夢でも見たのか?」
「何を言いますの? お♪に♪い♪様!!」
俺が聞くと青葉はくるくると回りながら俺の脇へと擦り寄ってきた。
アカン、完全に効かねぇ。
しかしここで諦めてはならん。
背水の陣とはまさに今の状況なんだな、いや四面楚歌でもいいや。
「青葉、一体何があったかは知らないが人間は時たま妙にリアルな夢を見るんだ。こんな話しがある。昔ある人が蝶になる夢を見た、あまりにリアルだったので目覚めてから自分は本当は蝶で、人間になっている夢を見ているのではないかと思ったんだ。」
「さぁって、朝ごはんに行く準備をいたしましょう。」
は、話を全く聞いていない。
「あ、あのな青葉。」
「うげッ!!」
俺が話しかけようとすると青葉は口を押さえて倒れてしまった。体が弱いなんて設定は聞いちゃいない。
何だっていうんだ?
「お、オイ青葉。どうした?…ってお前まさか。」
「えぇ、どうやら。メイクラブの賜物が…」
な…なにぃぃぃぃぃぃい!?
俺は一発目でロシアンルーレットを?
いや、待て待て待て。これは罠だ。
青葉は俺を陥れようとしているに違いない。
そんな事実は噂のリトマス紙を使わなきゃ分からないに決まっている。
落ち着け、落ち着くんだ。青葉のペースに呑まれちゃダメだ。
「こらこら、バカな冗談はよしなさい。いくら兄さんでもビックリするだろ?」
「そうですか。そういえば今朝こんなものを購入したのですが。」
青葉が取り出した一枚のディスク。
ま・さ・か!!
まさか!!
シスターラブ!!〜開通作業〜
売りにきやがったのか、幸子さん…
クソ!!クソクソクソ!!
DVDなんぞ滅んでしまえ。んなもんがあるからヒッキーが増えるんじゃ!!
俺は青葉から素早くディスクを取り上げると2つに叩き割った。
「青葉、これR指定だぞ?こんなもんを持ってちゃいかん。」
「ぶぅー。」
何が”ぶぅー”だ可愛く乗り切ろうとしても無駄だ。んなモンは本当に可愛い子がするもんだ。
お前のようにドス黒い心を持ったヤツがやっても意味は無い!!
「ぶぅーじゃない。さぁ、朝飯食いにいくぞ。」
俺はなんとかその場を凌いだが、俺を見る青葉の目はギラギラと光っておりまだまだ油断が出来ない状況が続きそうだ。
やはり逃げるしかない。次の惑星に着いたら何が何でも逃げ切ってバイトでも何でもして一人で暮らしてやる。
「えぇ、行きましょう兄さん。今日はトマト尽くしのメニューらしいですわよ。」
誰でもいい。誰でもいいから。
俺を助けてくれぇぇぇえええええ!!
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